日本においては現在少子高齢化がしんこうしていて、それと連動して高齢者特有の病気が増えつつあります。「老人性うつ」もその一つです。一般的にうつ病は、子どもから高齢者までどの世代でも発症する可能性がある病気なのでですが、高齢者のうつ病の場合、認知症と間違われるケースが多いということもあり、周囲の人がなかなか気付けず、知らないうちに症状が進行してしまうことがあります。そのため、周りの家族が正しい知識を持ち、早い段階で適切な対応を取ることが求められます。

老人性うつの治療について

老人性うつを治療する場合に、冒頭でもご案内しましたが、老人性うつは認知症と周囲が考えてしまうこともあり、症状が進行してしまいます。そのため周囲は、本人が元気がなかったり、ネガティブな発言や怒りっぽいというようないつもとは違うような状態が見受けられることになった場合には、うつの症状であると疑ったほうが良いでしょう。

老人性うつは治療すれば治る病気で、その治療方法としては色々とありますが、ここでは投薬という点から考えていきたいと思います。一般的にうつになった場合には、抗うつ剤を投与することになりますが、老人性うつの場合、抗うつ剤の使い方には注意が必要です。抗うつ剤の中には、「血圧を上げる」「尿が出にくくなる」などの副作用のあるものがあるからです。その人の身体状況によっては使えない抗うつ剤も存在するため、それぞれの健康状態に応じて抗うつ剤を選択する必要があります。その点、漢方薬の場合は自律神経に負担をかけないということもあり、漢方薬を投与するということが注目を浴びています。特に東洋医学ではうつ症状の原因を気虚(気が虚すること)と表現されます。漢方薬は自律神経の調節や気を補う効果があることがわかっているため、多くの病院で使用されています。

次にもう少し漢方薬とうつの関係について考えていきたいと思うのですが、漢方の世界においてうつは、鬱証と言います。鬱証は、精神的抑圧から精神のバランスが崩れその影響で体内の「気」の流れがスムーズに流れなくなってしまい鬱々とした気分が続いている状態と考えます。漢方における「鬱証」の起こるメカニズムは複雑ですが、最も重要なのは肝・脾・心の三臓の損傷と気血失調であるため、鬱症の発生初期と慢性期にタイプが分けます。

症状別漢方の投与について

次に鬱症の発生初期に対しては更に細分化されていて、下記の症状に対してどのような治療と漢方が投与されるのかご説明します。

・肝気鬱結タイプ
・症状:情緒不安定、怒りっぽい、生理不順、ゲップ、ため息、イライラ。
・治療:この症状は、「疏肝解鬱」と言って「肝」を整え、鬱状態を解き放つ目的の治療をします。
・漢方:紫胡疏肝散

・気鬱化火タイプ
・症状:すぐにかっとなって怒る、めまいなど。
・治療: この症状は、「清肝瀉火」と言って肝を清めて燃え上がっている火を鎮める治療を行います。
・漢方:竜胆瀉肝湯

・気滞痰鬱タイプ
・症状:喉の中に異物感があり飲み込んでも下がらず出そうとしても出ないが飲食の嚥下は正常におこなわれる。
・治療: この症状は、「理気化痰」と言って気の流れを調整して気の力で痰を取り除かせます。
・漢方:半夏厚朴湯・温胆湯

鬱性の慢性期のタイプは下記のとおりです。

・憂鬱傷脾タイプ
・症状:落ち着かずいてもたっても居られない、喜怒哀楽、ねむれない、あくび
・治療:この症状は、「養心安神」と言って心を養してリラックスさせる目的の治療をいたします。
・漢方:甘麦大棗湯

・心脾両虚タイプ
・症状:浮腫、倦怠、話すのが億劫、食欲不振、汗をかきやすい、軽度の腹部の張りや痛み、軟便、息切れ
・治療:この症状は、「健脾養心」・「益気補血」前者は脾を建て直して心を養する治療です。後者は気を益させ血を補する治療です。
・漢方:帰脾湯

・陰虚火旺タイプ
・症状:動悸、息切れ、ねむれない、怒りっぽい、生理不順など
・治療:この症状は、「滋陰清熱」といって陰液を補して熱を下げます。
・漢方:知柏地黄丸・六味地黄丸